毎朝通勤のために乗っている列車の発車時刻が、ダイヤ変更に伴って7分早まった。朝の準備も7分前倒しにしなければならないが、7分早く起きるというのはなんだか納得いかなくて起床時間は変えなかったので、準備の速度を少し上げざるを得なかった。
昨年の4月に働き始めてから、朝の準備にかかる時間が長いことがずっと悩みだった。初めのうちは必ず朝5時半に起きて、1時間もかけて準備をしていた。最近になってようやく準備時間の短縮に成功し、6時起床でも余裕をもって駅に着くことができるようになったのだ。 いつもより7分早く駅に着き、プラットフォームに降りると、列車のホームが変わっていた。車両も何だか外観が以前と違う。乗り込むと、内装はもっと違った。前の車両はロングシートだったが、これは……ボックスシートだ!観光列車のような、四人一組で向かい合う形の座席。空席を探し歩いていると、以前のロングシートでいつも向かいに座っていた男性を見つけ、そのボックス内の斜向かいに座る。
この男性は4月からずっとこの時間の列車にいる。私の最寄り駅が始発駅なので、男性もこの辺りに住んでいるのだろう。眼鏡をかけておりスキンヘッド。中年にしてはスタイリッシュな身なりと風貌をしており、日本人なのか外国出身の方なのか今一つ判断がつかない。ここでは仮にウィリアムとしておこう。ウィリアムはロングシートでは、始発駅から一駅の間は必ず隣の席に荷物を置いているのだけど、隣駅が近づいてくると荷物を膝に乗せて座席を空ける。どちらにせよ乗客は少なく、荷物を置かなくたって誰も隣に座ってくることはないから、理由は分からない。
いつもはロングシートの向かいに座っていたから2mくらいの距離があったが、今はウィリアムと約30cmの距離に座っている。ちなみに30cmというのはウィリアムと私の膝同士、最も接近している部位の距離だ。ウィリアムも私も背が高いので、膝の距離が近い。私たちはファミレスの座席よりも近い距離で文字通り膝を突き合わせて座っており、このまま話しかけたら普通に会話ができそう、そんなことを考えていたら高校生の時に列車で旅をした時のことを思い出した。
ある友人と、首都や被災地や大学を見学する日本一周研修旅行を計画してPTAの補助金をぶん取り、約十日間かけて福岡、大阪、東京、宮城、広島の5都市を列車で訪れた。
大阪から東京にがーーっと大移動した日、静岡か神奈川あたりでボックス席で一緒になった初老のご婦人と話をした。彼女はこれから江の島の別荘に一人で行くという。いつも家にいる夫からも、また家事からも解放されると言って嬉しそうだった。
旅の終盤に広島あたりで同席したのは小学生5, 6人。北海道から来たというから驚いた。家の近所に住むおじいさんと来たというからさらに驚いた。おじいさんは毎年、近所の子どもたちにいろいろな経験をしてもらうため、旅に連れていくのだとか。近所のおじいさんに子どもを何日も預けて旅に出すことのできる親もすごい、なんて温かい近所だろうと思った。きっとおじいさんの人柄がいいから、親も信頼しているのだろう。小学生たちはしっかりしていて、しゃきしゃき喋る。私たちは割りばしゲームや嵐(指スマ)をして長い時間遊んだ。二度と出会うことのないであろう人々と列車で話して遊んで、そのことに感動して一枚だけ写真を撮った。 

思えば、あの列車旅行で知らない人と話をしたときは、いつもボックスシートだった。ロングシートではなかなか会話が始まらない。ボックスシートなら、もしかしたら、通勤列車でも誰かと話ができるかもしれない。私は知らない人と話をするのが昔から好きだ。幼稚園児のころの私は、スーパーで母がちょっと目を離した隙にいなくなり、店の前のベンチで知らないおじいさんやおばあさんと話していた(らしい)。これからも列車のボックスシートに座るときには、私は知らない人とでも会話がしたい人間ですよ、という表情をして座っておこうと思う。