音研に入部したばかりの生徒がCASIOTONEを買ってきた。この生徒は演奏がめちゃくちゃに安定しており上手い、たぶんピアノを習ったことのある人だ。令和の音楽のシンセをCASIOTONEで弾くのには中々厳しいところがあって、ミセスのANTENNAを文化祭で弾くべく練習している部員たち皆で音探しに苦戦している。私も一緒になって探して、イントロの前半はシンセパッド、後半はシンセリードにいい音を見つけた。小さい頃CASIOのキーボードでいつも遊んでいたので、ぐるぐるとダイヤルを回して何百との音色を試す時、どのあたりにどんな音があるかだいたい分かる。すぐに音色を切り替えなければいけない場面があり、CASIOTONEの奥に88鍵の電子ピアノも置いて卓上で小室をしていた。「小室じゃん。あはは」と言ったけど生徒は誰も反応してくれず小室は世代じゃないよなと思ったが、そういえば私も小室を全然知らないのだった。

プリセット、というかそれしか鳴らしようのない内蔵音源を何とか使い分けてポップスを演奏することには、高校生特有のロマンがある。お金がないのでそこにあるもので音楽を鳴らすしかなく、普通ならしないような無茶な接続をしたりする。バンド音楽ではなくポップスを演奏しようとする稀有な高校生バンドは、ブリコラージュを強いられることで創造性を身に着けていく。

「シンセベース、ポチっちゃった」とドラムの生徒に言ってみたら、「あ、ああ」とだけ言われた。私はこのドラムの生徒の感性や笑いのツボが自分に似ていてすごく嬉しいのだけど、この人が私の言うことで笑ったり昂ぶったりすることはあまり無いので毎回反省する。