眼鏡をかけた人が、ばかでかい鍋を持って列車に乗り込んできた。2歳児が湯あみできそうな大きさのブリキ鍋は使い込まれていて、何十年も炊き出しの豚汁を作ってきた鍋というような趣がある。蓋はない。鍋を持った人は、一度私と同じ車室に乗り込んできて長い座席の端に座ったが、手すりと座席の隙間に鍋を固定しようとしてそれが困難だと分かると、隣の車室に移動していった。彼が鍋を列車に固定することを試みる度に、カラカラと小気味いい音が鳴った。列車に乗る全ての人が鍋とその持ち主を見た、眼鏡の人は恰好も髪型も立ち居振る舞いも平均的でそれほど特徴がなかった。