皮膚科の小さな待合室で、ベルリオーズの「ファウストの劫罰」が流れるスピーカーの目の前に背を向けて座り、クライマックスへと上昇してゆく管弦とティンパニを両耳に流し込んでいたところ、六、七歳とみえる少女が自動ドアをくぐってすたすたと受付に歩いてきた。可憐さとたくましさを兼ね備えた、健康的な少女である。職員さんが名簿に名前を書くように促すと、少女は職員さんの目をまっすぐに見て「漢字ですか、ひらがなですか」としっかりした口調で尋ねた。職員さんは「どちらでも」と答えて、微笑んだ。 いつのまにかファウストの劫罰は終わり、次の曲が流れ始めていた。